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航空機の耐衝撃性向上の研究

不時着時の衝撃力から身を守るために

空を飛んでいる飛行機は、不具合が生じても自動車のように一時停止ができません。もちろん事故は起きないように防がなければいけませんが、それでも発生してしまったときのことを考えて、機体には私たちが体に受ける衝撃をできるだけ少なくするために非常に多くの工夫がされています。

 

偶然ではない安全

2009年1月、米国ニューヨークで離陸直後の旅客機のエンジンに鳥が衝突(バードストライク)して停止したためハドソン川に着水するという事故がありました。この時一人の犠牲者も出なかったのは、動力を失った機体をグライダーのように操って無事着水させた操縦士の腕前もさることながら、不時着の衝撃から身を守るために改良が重ねられてきた航空技術の成果と言えます。
航空機の安全は事故の経験を活かして手に入れたものです。事故が起これば原因を究明し、それ以降の航空機開発に活かされてきました。その結果、飛行中の航空機に万が一のことがあった場合でも、ある程度のコントロールができれば搭乗者の安全が確保できるように設計・製造されています。そして世界の空を飛ぶ航空機は、ほぼ万国共通の基準のもとに作られています。
機体に衝撃を受けるようなとき、どのような方法で搭乗者の安全は守られているのでしょうか?衝撃を受けるいくつかの状況を取り上げ、その技術を見て行きたいと思います。

 

衝撃を和らげる工夫

着陸時、私たちが衝撃を感じずにすむのは、着陸脚を使って地面に接地することで、衝撃が吸収されているからです。しかしこの着陸脚が何らかの事情で使用できないときは胴体で着陸しなければならず、機体に直接大きな力が働き、衝撃力となって搭乗者に伝わることになります。
旅客機が空を飛ぶには、耐空証明(安全に飛行できることの認定証明)を取得する必要がありますが、不時着時でも安全を確保するために次の規準が設けられています。

これに基づいて作られている機体は以下のようになっています。

以上はほんの一例ですが、これらを証明しなければ空を飛ぶことができません。
不時着時の衝撃に備えて、現在の旅客機では座席で衝撃を吸収するように作られており、致命的な荷重が体にかからないような構造になっています。

 

壊れることで守る


図1 落下後の胴体構造(旅客機実機を使った試験)
頑丈で壊れないことが必ずしも搭乗者の安全につながるわけではありません。落下時には胴体下部がつぶれることで(図1)、衝撃エネルギーを吸収でき、搭乗者にかかる力をより少なくすることに寄与しています。つまり、意図的に壊れやすい部分を作っておくことが安全を守るうえで必要なのです。すでに一部のヘリコプタでは、これらを考慮して胴体下部構造が設計されているものがあります。
旅客機の設計においても胴体下部構造を衝撃吸収部として積極的に利用すれば、緊急着陸時の生存率向上や損傷度の低減が現在以上に期待できるため、将来の航空機へ適用することを目指して世界中で研究が進められています。
 

クラッシュ・シミュレーション


図2 ヘリコプタ実機を使った落下試験
衝撃吸収能力を高める胴体下部構造とは、具体的にどのようなものでしょうか?現在、床下にフォーム材(内部に空洞が沢山ある発泡硬質プラスチック材料)を充填する方法、衝撃吸収能力を高める新しい構造様式、衝撃を吸収するような複合材料を用いるなどの方法が研究されています。
このような新しい胴体下部構造を開発・設計するには衝撃シミュレーション技術が欠かせません。実物の航空機で試験をすることはコストがかかりすぎてそう何度も出来ることではないため、開発の現場ではコンピュータにより衝撃挙動を解析することが中心になります。コンピュータというバーチャルな空間で航空機の落下試験を行うのです。
JAXAでは衝撃時に機体に起こることを精度よくシミュレーションできる解析技術を研究しています。衝撃の現象を把握するため、様々な落下試験を行ってデータを取得し、解析結果と比較・検証することで解析技術の向上を図っています(図2 図3)。
三菱重工業との共同研究では、航空機が着水する事態になったとき、航空機胴体が水面からどのような力を受けることになるのかを把握するため、スケールモデルを用いて着水試験を行いました(図4)。併せて解析結果についても検証を行いました。より精度の高い衝撃解析を行うためには、構造結合部の破壊現象をより正確に模擬するため、リベット*の結合を精度よくモデル化することが課題です。

*リベット:部材を結合するのに使う金属性の鋲。


図3 落下試験 (着地0.1秒後の様子と解析図)

図4 スケールモデル着水試験
 

異物衝突に備える

ほかに機体が衝撃を受ける状況としては、飛行中に鳥や雹などが衝突したり、滑走路走行中に小石やタイヤ破片などの異物が巻き上げられて、機体に衝突したりすることがあります。航空機は速い速度で飛んでいるので、たとえ小さな異物がぶつかっても大きな力になり機体に損傷を与えてしまいます。
ハドソン川に着水した旅客機は不運にも鳥衝突によりエンジン機能を停止してしまいましたが、航空機は異物衝突を受けても安全を保つよう設計することが求められています(表)。異物衝突によって懸念される損傷には、例えば次のようなものがあります。主翼に衝突すれば燃料漏れによる火災を引き起こす可能性がありますし*、風防(コックピットを覆うガラス)を突き抜けて操縦士にぶつかる危険もあります。

* パリで2000年にエールフランス機のコンコルドが離陸直後に炎上ののち墜落した事故は、滑走路走行中にタイヤ破片が主翼下面に衝突したことが原因と発表された。

耐空性からの要求条件

対象構造 飛来物 質量 要求事項
主翼前縁等 約1.8kg 適切なパイロット操作の下での安全な飛行と着陸
水平尾翼前縁
垂直尾翼前縁
約3.6kg 尾翼・尾翼取付部強度、重要システムの保護
コックピット風防 約1.8kg 風防と取付構造からの進入防止
主翼下面 タイヤ破片 タイヤ質量の1% 脚収納室システムの保護
翼内燃料タンクからの漏れ防止

JAXAでは2008年10月に高速衝突試験装置を製作・設置しました。異物を所望の速度で供試体に衝突させ計測を行うための試験設備です。これまで三菱重工業との共同研究により、鳥を想定したゼラチン玉(発射体)を剛体平板や退役航空機の主翼前縁などの供試体に衝突させて、発射体の速度、発射体の衝突位置、供試体が受ける荷重、加速度、ひずみなどを計測しています(図5)。同時に、シミュレーションによりこれらを解析することも行っています。シミュレーションにより異物衝突時の荷重などを精度よく解析できるよう技術を高め、設計などの手掛かりとして活用されることを目標にしています。



図5 実機主翼前縁部供試体への衝突試験
 

空の安全に寄与

今後もっと多くの航空機が飛ぶことになると予測されています。航空機の死亡事故率は近年横ばい傾向ですが、航空輸送の増加に伴う事故死者数の増加が懸念されています。私たちは、事故を未然に防ぐための研究にも取り組んでおり、耐衝撃性向上技術の研究とあわせて、空の安全に貢献することをめざしています。

 

JAXAが考える安全性向上座席

エアバッグがクッション部で作動する

通常のクッションと同じ形態
  ↓
衝撃がかかる直前に機体からの電気信号が送られ、クッション部のエアバッグにガス封入を開始する。エアバッグ内圧をコントロールし、人体にかかる衝撃加速度を低減させる


自動車でおなじみのエアバッグがクッション部で作動する航空機用座席。航空機特有の垂直方向の衝撃を緩和し、座っている人の腰にかかる衝撃を緩和する。